キャンプ用品にフィットするゴトクの製作
ご要望のヒアリング

今回のご依頼者様には、弊社工場にお越し頂けましたので、現物のキャンプ道具を目の前にしながらのヒアリングが出来た事もあって、非常にスムーズに進みました。
まずは持ち込まれた物を見てみます。
『ソロストーブ』(現行品は『ソロストーブライト』)と言う小さな焚火台。
『スノーピーク チタントレック900/1400』
『ダイソー プチ鋳物 丸形グリドル』
これらをスタッキング(重ねてコンパクトに収納すること)して、一人キャンプに持ち出しているのだとか。
ところが、この焚火台にグリドルを乗せて焼き物をする際に、ソロストーブのゴトクでは若干不安定なので、より安定するゴトクを製作して欲しいとのこと。
今回製作するゴトクを実際に当てるのは、ソロストーブなのですが、さらに希望として、持ち込みの道具と上手くスタッキングできるようにして欲しいとのこと。
ご要望としては、
- グリドルが安定して乗る
- チタントレックと合わせてスタッキングできる
- シンプルな構造
- できるだけ安く
比較的、要望は具体的です。
そして、実は具体的な形の案もすでにお持ちでした。
先に、完成品をお見せします。

上下の輪っかを、支柱とゴトクが一体になったL字の棒で支える構造。
ご依頼者様からは「完全にイメージ通りになった」と言っていただけました。
製作
仕様の確定
ヒアリングの結果、ご依頼者様の案に無理がなさそうだったので、その案を元に、各所サイズ等計測し、より具体的な形にしていきます。
今回は、条件にスタッキングがありましたので、現物があると言うのは大きなメリットです。
パーツ製作
使用する材料は鉄の4mm棒1種類のみ、ここからパーツを切って曲げてしていきます。
まずは輪っかですね。
曲げ加工は、弊社の汎用曲げ型で形を出していきます。
輪っかになったら溶接。
形ができたら、今度は精度を追い込んで行きます。
輪っかと言うのは案外厄介で、ピタッと平面を出すには何度も調整します。
ましてや、今回はゴトクですから、平面に置いてバタツキが出たのでは使い心地が大きく損なわれてしまいます。
パーツの段階からキッチリ追い込んでおきます。
次はL字パーツ。
ゴトク側は切り口がそのままになりますので、軽く面取りもしておきます。
組み立て
溶接で接着して組み立てていきますが、
3脚で支えますが、3等分のガイドとなるような構造はありませんから、シェード製作でも使う等分を出す器具で印をつけていきます。
シンプルかつ精度の高い構造体を作ると言うのは、ある意味、腕の見せ所です。
安く作るために、シンプルな構造にして工数を減らすと言うのは、正解なんです。
でも、それを成立させているのは、作業者の工作精度とスピードです。
少ない手数でも、直角を出しづらい箇所で直角を出し、平面を出しづらい箇所で平面を出していきます。
完成
今回、
- グリドルが安定して乗る
- チタントレックと合わせてスタッキングできる
- シンプルな構造
- できるだけ安く
と言う条件の中で、キモになるのが2番目のスタッキングだったのですが、ご依頼者様としては、そこまでクリアランスのタイトな形でなくてもいいとのことでした。
結果、チタントレックの外側に、最も狭いところで2mm程度のアソビを持って重なる形になりました。

もう少し、詰められたのですが、これ以上詰めて、重ねたり外したりする時に取手や蓋と接触してガチャつくよりは良かったのかもしれません。
(個人的には、元々のスタッキングの隙間を縫って収まる形を攻めてみたかった気持ちもあるのですが、予算等他の条件との兼ね合いを考えると、妥当な形だったと思います。)
実は密かに、ゴトクもスタッキングした状態で、チタントレックの収納ネットに収まるようにしようと目論んでいたのですが、これもギリギリ収まりました。

個人のお客様からのご依頼
実は一番の懸念は価格の部分でした。
今回、ご要望に『できるだけ安く』がありました。
これは、要望の有無に関係なく、職人ならば当然考慮する部分です。
安く作る方法は極めてシンプルで、単に、速く作ることだけなんです。
それより逆にコストが嵩みそうなのが、打ち合わせの時間や内容の共有など、「作業時間以外のコミュニケーションの時間」で、どの位必要になるのか見通せないことが不安要素でした。
安く出来るのかな?合わなくなっちゃうんじゃないかな?と。
正直に言えば、今回はこの時間が思っていたよりも、ずっと少なくて済んだことが、価格に反映したと言うのが実情です。
お客様の顔が見える仕事の中で、通常の作業とはまた違った刺激や発見もあり、私自身も楽しんで出来たのは嬉しい誤算でした。
新たなご依頼お待ちしております。